
乗馬を長く続けて技術が上達してくると、いずれは自分専用の鞍が欲しいと考えるようになりますよね。
しかし、新品の鞍は数十万円から百万円を超えるほど非常に高価な専門装備であるため、乗馬の鞍を中古で探しているという方も多いのではないでしょうか。
中古の鞍を購入したり売却を検討したりする際には、市場で販売されている価格の相場や、買取に関するリアルな事情をあらかじめ知っておくことが極めて重要になります。
特に需要の高いパッシェやアルビオンといった人気ブランドの鞍は、インターネットのオークションなどでもよく見かけますが、目先の価格の安さだけで選んでしまうと取り返しのつかない失敗をするリスクが潜んでいます。
この記事では、私が日々乗馬を楽しむ中で学んできた経験をもとに、中古の鞍を安全に選ぶためのポイントや、知られざる注意点について詳しく解説していきます。
皆さんが安全に長く愛用できる運命の鞍を見つけるための、少しでもお役に立てれば幸いです。
- 人気のブランド鞍の販売価格や買取査定における相場の目安
- オークションなどの個人間取引における安価な理由と致命的な注意点
- 鞍の寿命や安全性を左右する鞍骨など内部構造の厳密な確認方法
- 愛馬の背中を守り重篤な鞍傷を防ぐためのフィッティングの考え方
中古の乗馬鞍の取引相場と現状

中古市場における乗馬の鞍の取引価格は、そのブランドが持つ歴史的な信頼性や製造された年次、皮革のメンテナンス状態などによって大きく変動します。
ここでは、検索されることの多い主要ブランドの販売価格の目安や、馬具専門店とオークションサイトでの取引価格の決定的な違いについて、私が日々チェックしている現状をお伝えしていきます。
人気の馬場鞍の販売価格と相場

馬場馬術の練習において、ライダーの姿勢を正しく保持するために欠かせないのが「馬場鞍」です。
深く座れるように設計された馬場鞍は、正確な扶助(馬への合図)を伝えるために非常に重要な役割を果たします。
しかし、欧米の主要メーカーの新品の馬場鞍を購入しようとすると、一般的に数十万円から、有名ブランドのハイエンドモデルでは100万円を超えることも決して珍しくありません。
そのため、初期投資をできるだけ抑えたい初心者の方から、複数の馬に乗るためにサブの鞍を探している上級者まで、乗馬の鞍を中古で求める声は常に絶えません。
実際に中古市場における販売価格を見てみると、ブランドの格や製造年数、革の保存状態によって驚くほどの価格差が存在します。
例えば、デザインの美しさと機能性のバランスが高く評価されている「エリックトーマス」の中古馬場鞍は、ショップによっては20万円前後の価格で販売されている例も確認できます。
一方で、フランスを代表する高級馬具メーカーであるオーダーメイド鞍ブランドの「シルデリック」や、精密なカスタムフィッティングで知られるイタリア製の「アメリゴ」などは事情が異なります。
これらのトップブランドは元々の新品価格が非常に高額であるため、中古であっても査定の一例として5万円から15万円程度の価値がつく場合があるなど、高い買取価格が提示されるケースがあります。
当然ながら、そこから専門業者による念入りなメンテナンスが施されて店頭に並ぶため、最終的な販売価格はさらに高くなります。
このように、元の新品価格の高さとブランドの持つ信頼性が、そのまま中古市場における価格形成のベースになっているのが、耐久財である乗馬用品市場の基本原理と言えるでしょう。
また、同じメーカーの製品であっても、プロ仕様の上位モデルか、初心者向けのエントリーモデルかによって、中古価格は大きく変動します。
ご自身の予算内で、愛馬とのパフォーマンスを最大限に引き出してくれる最高の一具を見つけるためには、まずこうした市場全体の目安をしっかりと把握しておくことが大切になります。
中古の鞍の価格は、その時の需要と供給、さらには為替相場の影響も受けて常に変動しています。
正確な販売価格や最新の在庫状況については、必ず馬具専門店の公式サイト等をご自身で確認するようにしてください。
アルビオンの中古市場での価値
数ある乗馬用品のブランドの中でも、1985年に設立されたイギリスのブランド「アルビオン」は中古市場において極めて特異な存在感を放っています。
一般的に、高級ブランドの耐久財は中古市場でも値崩れしにくい傾向がありますが、その中でもアルビオンは日本のプロのライダーからも絶大な支持を得ており、非常に人気が高いブランドです。
アルビオンの最大の魅力は、なんといっても人間工学に基づいた非常に堅牢かつ緻密な設計にあります。
内部の鞍骨(サドルツリー)にはラミネートされたブナ材が使用されるなど、ライダーの騎座をしっかりと安定させつつ、馬の背中への負担を最小限に抑える構造が追求されています。
また、使用されている革についても言及しなければなりません。
アルビオンはヨーロッパの名門タンナリー(革のなめし業者)から厳選した高品質な革を使用しており、モデルによっては最高級のイングリッシュレザーや、しなやかなイタリアン・カーフスキンなどが採用されています。
適切に手入れをすれば長期間使い続けることができる耐久性を誇り、この品質の高さが、高い価格のまま中古市場で取引される強力な裏付けとなっています。
新品の価格自体が高騰している背景もあり、「新品は高くて手が出ないが、どうしてもアルビオンが欲しい」という層が中古市場に流れ込んでいるため、状態によっては40万円近い高額な価格で販売される例も珍しくありません。
もしご自身がアルビオンの鞍を購入し、将来的に何らかの理由で手放すことになった場合でも、他のマイナーブランドに比べて買取価格が高くつきやすいというメリットがあります。
確かな品質と将来的な残存価値を見込んでアルビオンを選ぶというのは、非常に合理的で賢い選択の一つと言えるでしょう。
パッシェの流通量と価格の理由
ドイツが世界に誇る名門馬具メーカーである「パッシェ(PASSIER)」は、日本の乗馬クラブや大学の馬術部などでも広く見られるブランドの一つです。
多くのライダーがパッシェの鞍で乗馬の基礎を学んできた経験があるのではないでしょうか。
そのため、パッシェの中古鞍は専門店において、ショップによっては10万円前後という比較的初心者でも手が届きやすい価格帯で販売されている例をよく見かけます。
これほどまでに有名なブランドでありながら価格が抑えられている最大の理由は、中古市場に出回る絶対数(タマ数)が他ブランドに比べて圧倒的に多いからです。
流通量が多くなればなるほど、需要と供給の基本原理が働き、結果として価格競争が生まれてアクセスしやすい適正な価格水準に落ち着きやすくなります。
パッシェの鞍は非常にシンプルで無駄のないデザインが特徴ですが、ドイツのマイスターによる質実剛健な作りは高く評価されています。
もちろん、古い鞍を使用する際は鞍骨の状態や保管状況などに大きく左右されるため一概には言えませんが、状態次第では数十年前に製造されたモデルであっても、前のオーナーがしっかりと専用のオイルで手入れをしていれば、現代でも安全に使用可能な場合があります。
また、乗馬クラブの練習馬でいつも使っているのと同じブランドの鞍を自分の初めてのマイ鞍として選ぶことは、ライダーにとって大きな精神的な安心感に繋がります。
鞍の座り心地や革の感触にすでに慣れているため、新しい鞍に買い替えた際の違和感によるスランプを避けることができるからです。
豊富な在庫の中から、自分の予算や馬のサイズに合った年式・状態のものを見つけやすいという点は、パッシェならではの絶大なメリットです。
市場に流通している数が多いということは、それだけ自分に合ったサイズや状態の鞍を選べるチャンスが広がっているということです。
焦らずに複数のショップを比較検討することで、掘り出し物に出会える確率も高まります。
専門店による買取査定の相場
ご自身が現在使用している鞍が不要になった際、専門店に依頼した場合の買取査定額がどのくらいになるのかも、非常に気になるポイントだと思います。
馬の体型が変わってしまったり、馬場馬術から障害飛越へと競技の種目を変更したりと、乗馬を続けていれば鞍を買い替えるタイミングは必ず訪れます。
買取価格の相場は明確な公開統計が存在するわけではなく、お手持ちの鞍のブランド名、製造された年式、革の傷み具合、そしてその店舗の在庫状況によって大きく変動するのが実情です。
例えば、精密なカスタムフィッティングで需要の高いトップブランドであるイタリアのアメリゴや、フランスのシルデリックといった高級鞍であれば、査定の一例として、状態が良ければ5万円から16万円といったまとまった金額の買取価格が提示されるケースもあります。
ここで疑問に思われるかもしれないのが、「なぜ買取価格と実際の販売価格の間に大きな差があるのか」という点です。
実は、優良な馬具専門店は買い取った中古鞍をそのまま右から左へ転売しているわけではありません。
販売店の標準的な業務として、買い取った鞍の革の汚れを徹底的に洗浄し、専用の保革油で失われた栄養を補給し、後述する鞍褥(クッション部分)のウールを均等に詰め直すといった高度なオーバーホール(リフロックやインスペクション)を行います。
さらに、外からは見えない鞍骨に歪みや折れがないかを厳格にチェックし、安全性が担保された状態にしてから初めて市場に再投入するのです。
買取価格と販売価格の差額は、こうした品質保証と安全性担保にかかる技術的コストの裏返しに他なりません。
個人間で売買するよりも買取価格自体は少し下がってしまうかもしれませんが、その後の面倒な手続きやクレーム対応のリスクをすべて店舗が引き受けてくれる安心感は絶大です。
専門店ならではの下取りシステムを積極的に活用し、古い鞍を売ったお金を頭金にして新しい中古鞍へ乗り換えるという方法は非常にスマートです。
| ブランド例 | 買取査定の目安(一例) |
|---|---|
| シルデリック(Childeric) | 50,000円〜150,000円程度 |
| アメリゴ(AMERIGO) | 60,000円〜160,000円程度 |
※上記はあくまで査定の一例です。実際の査定額は時期や店舗の在庫状況、商品の状態によって大きく異なります。
オークション取引の安い価格の罠

インターネットのオークションサイトやスマートフォンのフリマアプリを覗いてみると、世界的に有名なブランドの中古鞍が驚くほどの安値で出品されていることがあります。
例えば、新品であれば数十万円を下らない名門スチューベンの鞍が、過去の落札履歴の一例として3万円台で取引されているケースなども確認できます。
一見すると信じられないようなお買い得品に見えますが、実はここには個人間取引ならではの極めて危険な罠が潜んでいることを知っておかなければなりません。
オークションに出品されている鞍の多くは、専門的なメンテナンスが放棄されたものや、出品者自身が馬具の専門知識を持たずに現状渡しで出品しているケースがほとんどです。
画面越しに見る数枚の写真や簡易な説明文だけでは、後述する鞍の致命的な欠陥である「鞍骨の折れ」や、クッション部分の「詰め物の硬化」を正確に評価することは絶対に不可能です。
中には、過去の激しい落馬事故で内部構造が破壊されているにもかかわらず、外見の革だけを磨いて出品されているケースも考えられます。
もし初期費用を安く抑えたいからといってこうした欠陥品を購入し、そのまま愛馬に乗せてしまったらどうなるでしょうか。
硬く歪んだ鞍は馬の背中に局所的な激痛を与え、最悪の場合は後遺症が残るほどの深刻な怪我を引き起こしてしまいます。
結果として、獣医師による高額な治療費が発生したり、長期間の休養によってトレーニングが大幅に遅れたりすることになります。
さらに、使い物にならない鞍を修理しようと工房に持ち込んでも、修理代が新品を買うよりも高くつくと言われ、最終的に廃棄せざるを得なくなることも多いのです。
数万円をケチった代償として、馬に多大な苦痛を与え、トータルで何十万円もの損害を被るリスクが、オークションには常に付きまといます。
個人間取引はノークレーム・ノーリターンが原則であり、万が一不良品をつかまされても自己責任となってしまいます。
ご自身で鞍を解体して内部構造をチェックできる知識がない限り、極端に安いオークション品には手を出さないのが最も賢明な選択だと私は強く主張します。
万が一、購入した鞍が原因で馬が怪我をした場合や、騎乗中に鞍が破損して落馬事故が起きた場合、すべての責任は購入したライダー自身に降りかかります。
人の命と馬の健康に関わる重要な安全装備の購入は、絶対に信頼できる専門店を利用することを強くおすすめします。
失敗しない中古の乗馬鞍の選び方

中古の鞍を選ぶ際、表面の革の美しさや有名ブランドのロゴといった外見的な要素だけで購入を決めてしまうのは、非常に危険な行為です。
ここでは、馬とライダーの安全を最優先に守るために絶対に確認しておきたい、内部構造のチェックポイントや選び方の具体的なコツを解説していきます。
寿命を見極める鞍骨の確認方法

中古の鞍を評価する上で、絶対に避けて通れない最も重要なポイントが「鞍骨(サドルツリー)」と呼ばれる内部の骨格の無事を確認することです。
鞍骨は、鞍全体のアーチ形状を維持し、ライダーの体重が馬の背骨(脊椎)に直接かからないように空間を確保するための、いわば心臓部とも言える芯材です。
過去の激しい落馬事故での強い衝撃や、馬が鞍を着けたまま地面で寝転がってしまったことによる圧迫などが原因で、この鞍骨が内部で折れたり歪んだりしている中古鞍が存在します。
ここで知っておくべき事実は、鞍骨の破損は重大な事故や馬の背部損傷の直接的な原因になり得るということです。
さらに、鞍骨の故障は実質的にその鞍の寿命(廃棄)を意味することが多い点にも注意が必要です。
なぜなら、鞍骨を修理するためには、職人が手作業で縫い合わされた皮革を一度すべて解体し、芯材を交換してから再び一針ずつ縫い直すという極めて大掛かりな作業が必要になるからです。
その修理費用は、新品の鞍を丸ごと購入するコストと同等、あるいはそれ以上に膨れ上がってしまう場合がほとんどです。
実際に、専門的な馬具工房であっても、鞍骨自体の修理や部品交換は技術的・コスト的な理由から一切受け付けていない業者が多いほどです。
では、外から見えない鞍骨が折れていないかをどのようにして見極めればよいのでしょうか。
購入前には、鞍の前部(前橋)と後部(後橋)を両手でしっかりと持ち、ねじるように強い力を加えて、剛性が完全に失われていないかをテストする必要があります。
もし内部で木材や樹脂が割れているような「ミシミシ」「パキッ」といった異音(軋み音やクリック音)がした場合は、残念ながらその鞍はすでにダメージを負っている可能性が高いです。
また、左右対称であるはずのアーチが目視で明らかに歪んでいる場合も、絶対に購入してはいけません。
専門店で現物を触って確認できないインターネット通販を利用する場合は、店舗側が事前に鞍骨の歪みチェックを行っているかどうかを必ず問い合わせて確認してください。
鞍傷を防ぐための重要なポイント

愛馬の体に合わない鞍を無理に使用し続けると、馬の背中に「鞍傷(あんしょう)」と呼ばれる深刻な怪我や皮下組織の炎症を引き起こしてしまいます。
鞍フィッティングや獣医学の資料においても、不適合な鞍が背部損傷の大きな原因となることが確認されています。
鞍傷は単なる皮膚表面の擦り傷にとどまらず、血流障害による皮下組織の壊死や、筋肉の重度な痛みを伴うため、馬が背中の痛みを嫌がって運動を激しく拒否する原因となります。
馬の背の高さ(体高)の計測基準点でもある「鬐甲(きこう)」は、首の付け根の上あたりにある隆起した部位であり、構造的に摩擦や下方からの圧迫によるダメージを非常に受けやすい部分です。(出典:JRA 競馬用語辞典『体高』)
このデリケートな鬐甲や背中全体を守るためには、鞍の裏側に配置されている「鞍褥(あんじょく)」と呼ばれるクッション部分の状態チェックが極めて重要になります。
中古鞍を実際に手に取ったら、まず左右のクッションが完全な対称性を保ち、均等に詰められているかを厳しくチェックしてください。
前のオーナーの座り方の癖によって詰め物が片側だけ極端にへたっている鞍をそのまま乗せれば、ライダーの重量を均等に分散することができず、特定の筋肉ばかりを強く圧迫し続けることになります。
さらに、指で鞍褥全体を丁寧になぞるように触診し、内部に不自然な「こぶ(塊)」や、逆に凹んでいる「くぼみ」が存在しないかも重要な確認項目です。
汗や湿気を吸ってガチガチに固まった古い詰め物が引き起こすこれらの凹凸が放置されたまま騎乗を続けると、ライダーの体重が面ではなく局所的な点となって馬の背中に突き刺さります。
また、表面を覆う皮革自体が乾燥して硬化し、ひび割れを起こしていないかも確認が必要です。
紙やすりのようにガサガサになった古い革は、騎乗中のわずかな摩擦で馬の敏感な皮膚を瞬く間に擦り剥いてしまいます。

愛馬に痛い思いをさせないための知識は、中古鞍を購入・運用するすべてのライダーにとって必須のリテラシーだと私は考えています。
少しでも違和感を感じた場合は、専門業者に依頼してクッションの中身を新しく入れ替えるなどのメンテナンスを必ず行うようにしてください。
鞍を外した直後に、背中の特定の場所だけ汗をかいていない(乾いている)場合は、そこが強く圧迫されて血流が止まっていた危険なサインです。
ブラッシングの際に背中を触って過敏に痛がる反応を見せた場合は、決して自己判断で済まさず、最終的な判断は獣医師や指導者といった専門家にご相談ください。
馬体に合うサイズとインチの確認

鞍を選ぶ際に必ず確認しなければならないのが、ライダーが座る部分のサイズと、馬の背中の幅に合わせるサイズの二つの要素です。
ライダーのお尻のサイズに合わせたものは「シートサイズ(インチ)」と呼ばれ、一般的に16.5インチや17インチといった数値で表記されます。
一方で、馬の背中(特に鬐甲周辺)の幅に合わせる前部の空間サイズは「ガレット幅(前幅)」と呼ばれ、ナロー、ミディアム、ワイドといった段階で分類されています。
どれほどライダーにとって座り心地が良く、シートサイズがぴったりの鞍であっても、ガレット幅が馬の体型に合っていなければ全く意味を成しません。

もしガレット幅がその馬に対して狭すぎると、鞍が鬐甲の側面を万力のように強く挟み込んでしまい、短時間の騎乗でも激しい痛みを伴う血流障害を起こします。
逆にガレット幅が広すぎると、鞍全体が前方に深く沈み込み、アーチの頂点が鬐甲の最上部に激突して深刻な外傷を引き起こしてしまいます。

特に、加齢によって背中が痩せている馬や、休養明けで筋肉の発達が不十分な細い馬は、鞍と背中が干渉しやすくなります。
さらに深く考慮すべき事実は、馬の体型は決して不変ではなく、生きて変化し続けるという点です。
鬐甲の出っ張り具合や背中の筋肉量は、日々のトレーニングの強度や、季節による脂肪の増減によって、数ヶ月単位で劇的に変化していきます。
これはつまり、購入時にプロに見てもらって完璧にフィットしていた中古鞍であっても、半年後には筋肉量が変わったことで合わなくなり、突如として鞍傷の原因になる可能性があるということを意味しています。
そのため、一度ぴったりの鞍を買ったからといって安心するのではなく、日常的な馬装の際にフィット感を確認し続けることが求められます。
少し隙間が空くようになってきた場合は、専用のゲルパッドやシープスキンなどのハーフパッドを追加して空間を補正し、圧力を分散させるなどの物理的な対策が必須となります。
馬とライダーの両方が快適に運動できる「人馬一体」のパフォーマンスを実現するためには、このサイズ選びに対する妥協なき姿勢が不可欠なのです。
リフロックなど修理が可能な鞍

馬の体型は常に変化するという避けられない課題に対して、ライダーが取れる最も有効な対策の一つが、「後から微調整が可能な構造の鞍」を選ぶことです。
中古鞍を評価する際、鞍褥(クッション)の内部にどのような素材が詰められているかに注目することは、その後の長期的な運用とメンテナンス性を左右する極めて重要なポイントとなります。
内部の素材が伝統的な「ウール(羊毛)」で構成されている鞍であれば、専門の馬具工房や熟練した職人に依頼することで、非常に柔軟な調整が可能になります。
アルビオンなどの多くの伝統的ブランドでは、製品に伝統的なウール詰め(ウールフロック)を採用していることが公式情報からも確認でき、これが高いメンテナンス性を担保しています。
馬の背中が痩せて鞍が沈み込むようになった場合は新しいウールを詰め足し、逆に筋肉がついて鞍が浮くようになった場合はウールを減らすことができます。
また、長年の使用でクッションがカチカチに硬化してしまった場合でも、一度中身をすべて抜き取ってから新しく柔らかいウールを均一に詰め直す「リフロック」という大掛かりな調整作業を行うことが可能です。
このリフロックが可能な構造であるからこそ、新しい馬の背の形状に合わせて何度でもカスタマイズし直すことができ、一つの鞍を何十年も愛用することが可能になるのです。
一方で、一部のブランドなどで採用されている「フォームパネル(成形ウレタンフォーム)」の鞍は、クッション性が高く最初から馬体に馴染みやすいというメリットがあります。
しかし、フォームパネルはウールのように中身を足したり引いたりすることができないため、馬の体型が大きく変わった際のリフロック調整が実質的に困難です。
もしフォームパネルの鞍が合わなくなった場合は、厚みの異なる様々なパッドを敷いて外側から無理やり調整するか、最悪の場合は鞍そのものを買い替えるしか選択肢がなくなってしまいます。
そのため、将来的な馬の体型変化というリスクに対する備えとして、「ウール詰めでリフロックが可能な鞍」を選ぶことは、安全かつ経済的な選択だと言えます。
購入前に販売業者に対して、「将来的にリフロックのメンテナンスは可能ですか?」と質問を投げかけるだけでも、失敗するリスクを大幅に減らすことができるはずです。
まとめ:安全な中古の乗馬鞍の買い方

ここまで、乗馬の鞍を中古で購入・運用する際に知っておくべき市場の動向や、内部構造の厳密な確認方法などについて詳しくお話ししてきました。
乗馬というスポーツは、言葉を持たない動物である馬の背中に直接乗せてもらうことで初めて成立する、非常に特殊で素晴らしい競技です。
だからこそ、馬と私たちライダーを繋ぐ唯一のインターフェースである「鞍」の品質や安全性には、決して妥協してはならないと私は強く信じています。
初期費用を抑えたいというお気持ちは痛いほどよく分かりますが、目先の価格の安さだけにつられて、出所不明でメンテナンス状況も分からないオークションの安価な品に不用意に手を出すのは非常に大きなリスクを伴います。
内部の鞍骨が折れていないか、クッションが硬化していないかといった、馬の健康と直結する重要なポイントをプロの目で厳しくチェックし、適切なオーバーホールが施されている信頼できる馬具専門店で購入することが、結果的に最もコストパフォーマンスが高く、安全な選択となります。
万が一、不適合な粗悪な鞍で愛馬の背中を傷つけてしまえば、高額な治療費や長期間の休養によるロスが生じるだけでなく、馬との間に築き上げてきた大切な信頼関係すらも崩れ去ってしまいます。

また、専門店で良質な鞍を購入した後も、馬の体型変化には常に気を配り、定期的に鞍褥の偏りや皮革の劣化状態をチェックする習慣をつけることが大切です。
毎日のブラッシングの際に背中に異常がないかを確認し、必要であれば専門の職人にリフロックを依頼するなど、鞍を「育てていく」感覚を持つことで、より一層乗馬の奥深さを楽しむことができるでしょう。
愛馬の健康と背中をしっかりと守りながら、ご自身の騎乗技術を飛躍的に向上させてくれる、最高の中古の乗馬鞍に出会えることを心から願っています。
なお、最終的な鞍の購入判断や、ご自身の馬へのフィッティングの適合性については、インターネット上の情報だけで完結させるのではなく、普段からお世話になっている乗馬クラブの指導者や専門家にも必ずよく相談しながら決めてみてくださいね。

